高校時代,ぼくは山岳部員でした.
ぼくらの高校の山岳部には強力なOB会があり,巻機山とゆー新潟にある美しい山の登山口
にトイレはないけど幽霊がでるK小屋とゆー小屋をもっていて、そこがぼくらのホームグラウンドでした.
高校2年の終わりの春山合宿のときのことです.
春山といっても積雪数メートルで吹雪になることもありますから,ウインドヤッケの
上下に足には[ワカン](雪上をあるくための道具)をつけ,山岳部に代々伝わる
キスリングとゆー横幅の長いザックにシャベルとピッケルを縛りつけて総重量40Kgの
荷物をかついで山にはいりました.もちろんキスリングの奥にはサントリーホワイトが
隠されていました.
合宿2日目に頂上直下の平らな場所に冬山用テントを設営し,そのまわりを切り出した
雪のブロックで囲みます.そしてぼくらはテントのとなりで雪洞作りにはいりました.
雪洞とは雪の中につくる洞穴で,雪中ビバークを余技なくされた場合に
逃げ込むためのものです.春山合宿では訓練のために雪洞をつくり,そこで寝なければ
いけないのです.
雪洞は、山の斜面に作ると水平方向に掘るだけなので楽なのですが、
テントを設営した場所は、平らな場所でした。
空は青空で白く輝く山々を眺めながら,ぼくらは雪を垂直に
2メートル以上掘り下げ,そこから横穴を堀り,4人がらくに眠れるくらいの空間をほり
抜きました.
テントの中で夕飯をとって,ミーティングを終え,ぼくら4人は雪洞に向いました.
雪洞の中は,まわりが白い雪の壁ですから,ろうそく1本灯しただけで,とても明るく,
テントは風にあおられてバタバタと音をたててうるさいのに,まったくの無音です.
こんな快適な空間がかつてあっただろうかと思い,入口を雪のブロックで塞いで,空気
穴をあけました.先生はテントの中ですから,おおっぴらに酒も飲めるわけです.
そんなこんなで,寝袋にはいると疲れた体はすぐに眠りこけてしまいました.
数時間後......
あまりの寒さに目を覚ましました.暖かいと思っていた雪洞の内部は,床にあたる部分
の雪が体温で解けて,敷いていた荷物梱包用の発砲スチロールシートの隙間から寝袋に
しみこんできます.
次の瞬間、真っ暗なことに気づきました.ろうそくはつけたまま
寝たはずなのに.
寝てる部員をおこし,マッチをすりますが,発火するとすぐに
消えてしまいます.ライターは火花しかとびません.
「酸素がないんじゃねーの?」
1人が空気穴に手をつっこむと,
「どこまでいっても雪だ」
夜中に雪が降り出して,縦穴を埋めてしまったのです.
雪に塞がれた縦穴を雪まみれになって泳いではい出す元気がなかったので,ぼくらは
テントで寝ている部員にトランシーバーで助けを求め,掘りだしてもらったのでした.
酸素濃度の話
巻機山の雪の下で過ごした夜から30年以上の歳月が流れました。
オッサンになって、あの晩のことを思い出すとギモンが沸き起こってきます。
あのとき、特に息苦しさも感じていないのに、マッチを擦っても火がつかなかったし、ライターも点火できなかった。
火が燃えるとゆー現象には、どれくらいの酸素濃度が必要か調べてみました。
昭和の頃であれば、図書館に行って何時間もかけて調べるところでは、いまではインターネットのおかげですぐに答えが見つかります。
だいたい、酸素濃度が15%以下になるとロウソクの火は消えるみたいです。
空気中の酸素濃度は普通21%とのことなんで、15%はちょっと意外です。
ロウソクは、案外はやく燃えなくなるんですね。
これに対して、人間の呼吸にはどれくらいの酸素濃度が必要でしょうか。
これも検索するとすぐに見つかりました。
18% 頭痛
16-14% 脈拍・呼吸数の増加、頭痛、吐き気
12% めまい、吐き気、気力低下
10% 顔面蒼白、意識不明、嘔吐
8% 失神昏倒
6% 瞬時に昏倒、呼吸停止
▲出典:http://mh.rgr.jp/memo/mv0124.htm
酸素不足になって意識不明になるまえに、頭痛や吐き気が生じるとありますから、人間のカラダとゆーのはよくできています。
ニンゲンがあぶない状態になるのと同じくらいの酸素濃度で、ロウソクが燃えなくなるってゆーのも嬉しいですね。
この冬,あなたも雪洞で寝てみませんか?