新緑の上高地に行って、その風景にいたく感動しました。
毎年、上高地ではウェストン祭が開かれ、ウェストンは日本アルプスの父と呼ばれているわけですが、ウェストンの有名な著書をまだ読んだことがなかったので、今回読んでみました。
こんな文章が出てきます。
こうした 異様な新旧の対照あるいは結びつきは、我がイギリス方式を真似た海軍と隣国ドイツの方式を真似た陸軍とによって守られた首都や、繁華な開港場をはなれた、中部日本の奥地へ足を踏み入れると、いっそうはっきりと見ることができる。つまり、その大山脈のふところに入って、山陰に住む素朴で親切な田舎の人たちと親しく交わってみると、まったく別の世界に迷い込んだような気分になるのだ。とにかく、このあたりの知的水準は、19世紀的というよりは九世紀的なのである。
出典:『日本アルプスの登山と探検』
知的水準が九世紀的だそうです。
ウェストンが日本の奥地の長野県や岐阜県を訪れた明治時代。鉄道網がどんどん広げられて行った時代ですが、まだ、馬や人力車が走っていた時代です。
ウェストンといえば、このレリーフのお顔の印象がありますが、『日本アルプスの登山と探検』を記したのはまだ30代のころです。
大英帝国からやってきた30代の体力バリバリの男が発展途上にある明治時代の日本を訪れ、木こりや猟師を案内人にして、蚤に身体を喰われ、雀蜂に刺されながら日本アルプスの山々を登り、混浴の温泉に浸かって日本人の礼儀の良さに驚いたり、按摩さんのマッサージを受けてとろけてたりしていたわけですね。
当時の日本人の暮らしがユーモアを交えてリアルに描写されており、楽しい旅行記になっています。
上條嘉門次は、この本の第9章で登場します。
上條嘉門次小屋についても次のように記述されています。
この災難の現場を後にして、まもなく嘉門次の小屋に辿りついたが、そこはまったく人気のない静かな池[明神池]のほとりで、鏡のような水面には水際から聳え立つ高い絶壁がさかさまに影を落として、さながら一幅の絵をみるようだった。
出典:『日本アルプスの登山と探検』
さらに、ウェストンは御岳山にものぼり、御岳巡礼の日本人の様子を細かく観察し、記述しています。
巡礼者が神懸かりになる儀式に非常に興味を覚えたようで、山から下りても考察を続け、最終的に、このような儀式は中国・朝鮮を経由して日本に伝えられた古いヒンズー教神秘主義の残存形態に過ぎないと結論づけています。
もっと早く読んでいればよかったなあ。
上高地に行った人、これから行く人には必読の書といってもよいと思います。
続く